ゆず『GET BACK』は、アニメポケットモンスターメガボルテージ編のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲です。失った未来を取り戻す=『GET BACK』というフラッグのもと、1番の歌詞を岩沢厚治さん、2番の歌詞を北川悠仁さんが作成し、組曲のような構成をとっています。また、『GET BACK』は2025年秋に開催される『YUZULIVE 2025 GET BACK トビラ』を牽引する曲でもあります。
アニポケver.とフル音源
『GET BACK』は、アニメのオープニング曲として90秒で作られたテレビサイズ音源(アニポケver.)と、歌詞がさらに追加されたフル音源という2種類が存在します。また、yuzuofficialのYou Tubeチャンネルには、フル音源のミュージックビデオも投稿されています。
テレビサイズ音源は、2025年04月11日に公開されました。アニメポケットモンスターメガボルテージ編の第一話放送と共にYou Tubeでオープニングのアニメーションも投稿されており、アニメの登場人物リコ目線の1番ではリコが、ロイ目線の2番ではロイが主に登場するムービーとなっています。
フル音源は同年05月21日、YuzuOfficialのYouTubeチャンネルでデジタルリリースされました。リリース2日前に公開されたジャケット写真にはトビラのCDに用いられていた扉の絵がそのまま写っており、『GET BACK』デジタルリリースと同時に『YUZULIVE 2025 GET BACK トビラ』の開催が告知されました。テレビサイズ音源と比較すると、2番のサビの歌詞が異なっており、3番が追加されています。3番のラスサビは、テレビサイズ音源の2番だった部分を転調させたものが用いられているようです。
フル音源のミュージックビデオの公開は同年05月29日。コンセプトは「時の旅人」で、YUZU OFFICIAL WEB SITEでも紹介されています。
主人公がもうひとりの“自分”である影と出会い、様々な扉を開きながら、心の奥に眠る「まだ出会っていない、これまで置き去りにしてきた自分」に出会う、“自分の内側を見つめる”旅を描いた物語。
YUZU OFFICIAL WEB SITEには、ミュージックビデオの随所にトビラのモチーフが描かれているとの紹介もありました。最も目まぐるしいのは、3番のBメロでしょう。






主人公が影(もうひとりの“自分”)に触れると、まさに「げきりゅうのなか泳いでゆく」ように水中を前進して水の泡が後ろへ過ぎ去ってゆくのですが、その泡の中に仮面、ベンチ、ラジオ、信号機、トンネルのモチーフが紛れ込んでいます。それぞれ『トビラ』収録曲である『仮面ライター』『シャララン』『午前九時の独り言』『ガソリンスタンド』『ねぇ』の歌詞に登場します。
『トビラ』ってどんなアルバム?
2000年にリリースされたゆずの3rdアルバム『トビラ』は、一体どんなアルバムだったのでしょうか。ゆず不自然というインタビュー本では、「身を削るかのように辛辣に広げられた北川悠仁の心の奥、高鳴る感情を緻密に表現する岩沢厚治の生き方が、それぞれに色濃く露呈されたリアルサイズの作品」と表現されています。『トビラ』はゆずにとって挑戦的なアルバムで、タイトルの付け方一つ取ってもそれが現れているように思います(この作品ができる前までは、『ゆずの素』『ゆず一家』『ゆずえん』『ゆずマンの夏』とあるように、どこかに「ゆず」という単語を忍ばせていました)。2000-2001年のトビラツアーも、これまでライブに合ったお楽しみコーナーが一切排除され、曲を聞かせるというスタンスを徹底していました。
『GET BACK』についてのインタビュー(CINRA)で『トビラ』リリース当時を振り返った際、北川さんは「いろんなことに対して違和感を感じていた」「そんな違和感や焦り、怖さのような感情を『トビラ』にぶつけて歌っていた」と話します。また、岩沢さんは「『トビラ』は、当時の僕らでは受け止められないぐらいテーマの大きい作品だったと思っていて。歌詞の言葉ひとつ取っても、遠吠えになっていなくて」と話していました。
『図鑑』ツアーとゆずの進歩
そんな『トビラ』をGET BACKしようという決定には、2024ー2025の図鑑ツアーが関係しているようです。北川さんは『GET BACK』という曲を掲げるにあたって、ライブに関してもGET BACKしたいと考え始めたとき、図鑑ツアーで歌った『ワンダフルワールド』が思い浮かんだと話していました。
15年以上前につくった曲なんですけど、いまのゆずの表現で演奏して歌ったら、なんか当時よりもしっくりきたんですよ。
あの頃はもっとムキになって「ワンダフルワールドだ!」って叫んでいたようなところがあったんですけど、いまはそのやり方をしなくても、歌の世界観が自分のなかでしっくりきて。
かつて、GEISAIつながりで村上隆さんが曲を聞きに来たとき、ワンダフルワールドを披露した際に、村上さんとのやり取りで北川さんは「こんな世界のどこがワンダフルワールドなんだよ、と斜な角度から入った」「それでも僕らのワンダフルワールドなんだ」と話していました。一方、図鑑ツアーで表現されたのは、「死が訪れても、もう一度巡り合える」という「死と再生」の世界観の中で奏でる『ワンダフルワールド』です。
当時抱えていた違和感と、今だからこそ表現できた世界観。この感覚が、『トビラ』GET BACKに繋がったのかもしれません。
また、『トビラ』という重たい作品をリバイバルしようと踏み出せたのも、図鑑ツアーの体験が自信につながっていると岩沢さんが話していました。「いまだったら、ちゃんと吠えられる気がする。だって、『図鑑』ツアーができたんだし」
『GET BACK』考察
ここからは、『GET BACK』そのものについて考察していきたいと思います。
まず外せないのが、テレビサイズとフル音源の違いについて。先ほど「アニポケver.とフル音源」の章で少し触れましたが、フル音源の2番のサビが全く新しいものに変わっており、3番が追加され、3番ラストの転調でテレビサイズの2番が歌われています。なぜ単純に歌詞を足すだけでなく、このような形になったのでしょうか。それは、フル音源が「リコとロイ2人の曲」だけではなく「もうひとりの“自分”である影と出会う曲」である事に起因すると考えられます。
テレビサイズでは、1番の「私」はリコ、2番の「僕」はロイの一人称ですので、2番サビの「さぁ 君と」の「君」はリコであると考えられます。一方〈未来をGET BACK〉というフレーズは、「かつてはこういうことを目標にしていた」「こういう夢があった」など、忙しい日々のなかで止まってしまっていた時計の針を動かすという意味を込めて作られたという背景があります (CINRAより)。
それを踏まえるとフル音源では、「かつて、叶わない夢を持った自分を、心の中に閉じ込めた。時は過ぎ、いま自分の内面と向き合ったことで、閉じ込めていたもうひとりの“自分”に出会うことになった。もうひとりの“自分”と共に歩んで行こう」というストーリーをなぞることができます。
そのストーリーを踏まえると、2番のサビに「目を閉じれば 手を当てれば 心にある」という歌詞を入れたのは、1番の「私」が「僕」にとって他人ではなく、自分の中に閉じ込めていた「もうひとりの“自分”」であると表現するためだと考えました。
歌詞が表している「時間」について
イントロが終わり、1番のAメロに突入する直前に、テープを巻き戻すような効果音(SE)が入っています。2番のAメロ直前にも同様のSEが。一方、3番のAメロには時計の針が進むようなSEが混ざっています。ここ考えられるのは、1番、2番は“もうひとりの自分”と“主人公”が出会う前(つまり過去)の歌詞で、いわゆる人物紹介的なパート。そして3番は、その二人が出会った瞬間(今)の歌詞であるという事です。
また、3番のサビの後半で転調してラスサビを迎えることにも注目します。私は、転調後の歌詞は未来を表していると考えており、その理由は二つあります。一つ目はラスサビの歌詞です。「きっと」という単語が出てきたり、「取り戻すのさ」というまだ達成していないであろうビジョンについて歌われています。二つ目の理由は、「転調」そのものにあります。『雨のち晴レルヤ』『GreemGreen』を例に取ってみましょう。この2つの楽曲は、『GET BACK』と同様、サビの1フレーズが終わった後に転調し、もう一度転調後のサビが繰り返されます。そしてどちらも、転調前に比べて転調後の歌詞が「後に起きる出来事」を表現しており、例えば『雨のち晴レルヤ』では、転調後「君と待っていたい」という願望(つまりまだ起きていない未来)が歌われます。『GreemGreen』はさらに分かりやすい例で、転調前に過去形だった歌詞が、転調後現在形になります(転調前:「見てた空」、転調後:「見てる空」)。必ずしも転調の前後でキッカリ過去、現在、未来が切り替わるわけではありませんが、転調によって時間の進みを表している可能性はあるでしょう。
印象が変わる⁉『GET BACK』の歌い分け
2番の歌い出しは、北川さんと岩沢さんによって交互に歌い分けられています。この歌い分けに則って言葉を区切ると、歌詞の印象が変わったように思えたので、紹介します。歌詞を検索すると出てくる、「たどり着いた世界」という一塊の単語。この区切り方ですと、ここまでたどり着いたことに重心が置かれているように感じられます。しかし実際は「たどり着いた」を岩沢さんが、「世界」からは北川さんが歌っています。

歌い分けに則った区切り方をすると、「僕だけたどり着いてしまった」「世界にひとりぼっち」というような孤独な感情を、「違う」と必死に否定しているように感じませんか。特に「違う」の部分は二人で歌っているため迫力が出ており、主人公の意志を表現しているのではないかと考えました。
考察まとめ
今回の『GET BACK』考察をまとめると、以下のようになります。
- テレビサイズ、アニメポケットモンスターのOPはリコとロイを表現した歌詞。
- フル音源の『GET BACK』は、「かつてはこういうことを目標にしていた」「こういう夢があった」など、忙しい日々のなかで止まってしまっていた時計の針を動かすという意味が込められている。
- 2番のサビが異なるのは、フル音源の2番の主人公が自分の内面と向き合うことで、もうひとりの自分と出会うからと考えられる。
- 巻き戻すような音と時計が進む音によって、1番2番が過去、3番が今であることを表している可能性がある。
- 転調で、さらに未来を表していると考えられる。
- 2番の歌詞の歌い分けによって、主人公の孤独をより印象深く表現していると感じる。
『YUZULIVE 2025 GET BACK トビラ』セトリ予想
セトリ予想というと大げさですが、『YUZULIVE 2025 GET BACK トビラ』で演奏されそうな曲をいくつか考えていきたいと思います。
- 幸せの扉
- 飛べない鳥
- 嗚呼、青春の日々
まずはトビラ曲から。『幸せの扉』は何と言ってもリード曲、『トビラ』のトップバッターですので、演奏されるのではないでしょうか。『飛べない鳥』は、ファンから途方もない人気を獲得していますし、『GET BACK』ミュージックビデオの砂地も『飛べない鳥』を彷彿とさせました。『嗚呼、青春の日々』はオリコンチャート1位を獲得していますし、図鑑ツアーでも盛り上がりを見せた曲です。
- ヒカレ
歌詞が持つ世界観が、すごく『GET BACK』に近いと感じました。極めつけに、「閉ざされた 扉 今 開けて明日へ」という、ピッタリすぎるにも程がある歌詞が、最後の最後に入っています。
- Always
今回のライブはゆずの輪Presents。実は単独で『Always』が生演奏されたのは、ゆずの輪Presentsの杜の音2022のみです。感傷的な情緒あふれる楽曲で、「扉の向こうに待ってる日々 少しだけためらうんだ」という詩も含まれます。『トビラ』との関係は不明ですが、ミュージックビデオにも白い扉が登場し、横長の四角い覗き窓らしきものもついていて、どことなく『トビラ』のジャケット写真に似ています。歌詞の意味としては、『GET BACK』よりも前の段階か、あるいはGET BACKしなかった世界線のようにも思えるので、確信は持てません。
以上が『GET BACK』考察です。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
参照
- なぜいま、ゆずは25年前の『トビラ』と向き合う?“GET BACK”で向かう未来 2025.06.11 Sponsored by ゆず『GET BACK』https://www.cinra.net/article/202506-yuzu_mrymhcl
- 森田恭子 『ゆず 不自然』ソニーマガジンズ 2001.07.31 発行
- アニメーションで描く新曲『GET BACK』MV公開“トビラ”をモチーフにした、自分の内側を見つめる旅の記録 2025.05.29 YUZU OFFCIAL WEB SITE https://yuzu-official.com/contents/information/ea663519-96e7-4641-907c-779aea1a0a86
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