『図鑑』アルバムとしての意味を考察

「ゆず」について

 2024年7月31日リリースのゆず18thアルバム『図鑑』。このページでは、ゆずのお二人がアルバムに込めた思い、そしてある意味時代に逆らって、アルバムとして作品をリリースした意義を考察します。

 また、アルバムだからこそ広がる歌詞の捉え方、楽しみ方も紹介していきますので、ぜひ最後まで楽しんでいってくださいね!

タイトル『図鑑』に込められた思い

 アルバムタイトルを『図鑑』とした理由について、ゆずのリーダー北川悠仁さんは「まだ出会っていない音楽や景色があるんじゃないかという期待も抱いていて、それが図鑑をめくるときのわくわくする気持ちとリンクした」と、AERA24.8.5 No35で言及しています。これについては、2024/07/31のFM802のラジオでも同様に述べられていました。

 さらにラジオでは、若いときはアンテナの感度が高く、聴くだけでなぜそれが良いと思えるのかが分かっていたのに、年齢を重ねるともう新しいことはいい、聴きたくない、見たくない…というような、ある種の拒否感を抱いたことがあると話していました。

 そんな拒否感さえも覆してしまうほどの「期待」。まだ出会っていない音が、知らない音楽があるのではないか。彼らの未知に対するスタンスを垣間見られるアルバムであり、2曲目に収録されているタイトル曲の『図鑑』は、まさにその姿勢が表れた曲だと思います。

アルバムのテーマ

 「図鑑」とひとくちに言っても、星座図鑑、色図鑑、植物図鑑、昆虫図鑑、魚図鑑、恐竜図鑑など、様々な図鑑がありますよね。では、ゆずの『図鑑』は何でしょうか。

 サウンドの面では、60’s後半~70’sのサイケやソウルを色濃く反映する『Chururi』、音切れの良いAメロが印象的な『つぎはぎ』、弾き語りから始まりバンドが加わるゆずの歩みを表すかのような『SUBWAY』、急激な場面転換が特徴的な『ビューティフル』等、様々なゆずの音表現を堪能できる「図鑑」であることは間違いありません。新たに取り入れられたサウンドと、彼らのハーモニーとが組み合わさるとどうなるか、ライブではどのように表現されるのか、期待が膨らみます。

 またAERAのインタビューでは、このアルバムについてゆずのお二人ともに、興味深い発言をしていました。「『図鑑』には、生きようとする人間の根源的なエネルギーや死と再生を込めている」と北川さん。そして岩沢さんは「どの曲もどこかに救いがあります。たとえ重たかったとしても」と話します。

 「死と再生」というワードは、CINRA 2024.08.01のインタビュー中、『図鑑』収録曲『ビューティフル』にまつわる話でも登場しています。このインタビューで北川さんは、YUZU TOUR 2023「Rita-みんなとまたあえる-」の時期に「プライベートな気持ちとしてはなかなか浮上できない」心境であったことを明かしました。そしてRitaツアー後のKアリーナ公演に向かう気持ちと共に生まれた楽曲がこの『ビューティフル』であり、「死と再生」がテーマと言います。

 Ritaツアーあたりの北川さんが精神的にきつかったことについては、CINRAだけでなくAERA、ROCKIN’ON JAPAN2024年8月号にも言及がありました。ROCKIN’ON JAPANでは「これは個人的な話だけど、そのツアー(Rita)の直前にちょっとキツいことがあって。精神的にふさぎ込むつらい時期があったんです」と話していることから、そのような精神状況に陥るトリガーとなった出来事があったと考えられます。このタイミングでゆずとしての次のステップ、Kアリーナ公演に進む際に、「死と再生」がテーマの『ビューティフル』が制作されていることから、その出来事自体が死に関連することであるとも考えられますが、それはまた別の話としましょう。

 さて、この『図鑑』というアルバム自体のテーマも「死と再生」であり、『ビューティフル』以外にもそれを表象する楽曲が記録されています。『花言霊』はまさにそれを象徴する一曲で、詩の中にも、生物の死骸が分解者によって次の命を支える養分になり、新たな命が続いてゆく描写がありました。『十字星』はアイススケートの舞台、『氷艶 hyoen 2024 -十字星のキセキ-』に向けて書き下ろした楽曲で、この公演自体も命が主題です。また、氷艶公演3日目の2024年6月10日、ゆず公式ファンクラブゆず友のブログで北川さんは、「銀河の片隅」と題する投稿で亡き父に想いを馳せていました。先ゆく人が残していったものを、今の命が受け取る。『花言霊』にも通ずる作詞者北川さんの視点を、この『十字星』でも辿ることができるでしょう。

 次に、岩沢さんの「どの曲もどこかに救いがあります」という発言に注目してみます。『十字星』や『ビューティフル』などはまさしく、その「救い」が特に曲の後半にかけて鮮やかに表現されていると感じました。一方、それを前面に押し出しているわけではない『つぎはぎ』や『SUBWAY』も収録されています。

 『つぎはぎ』のどこかに救いがあるとしたら、一体何でしょうか。ここでは、「君は分かっていた 本気出す衝動さえ」という1節がそれにあたると考えてみます。このアルバムの中で「本気出す衝動」と聞くと、まず初めに思い浮かぶのは間違いなく『Frontier』でしょう。なぜなら『つぎはぎ』の一曲前、ちょうどさっきまで聞いていたのですから。そして『Frontier』は開拓者、「まだ知らない謎だらけの世界」に進んで行くような曲です。「合理的だもの」と言って「叩くのをいつしかやめた」主人公にとって、がむしゃらに未知へ突き進む「君」もとい『Frontier』は、「救い」と形容されるにふさわしいのではないでしょうか。

 『SUBWAY』はどうでしょう。救いがあるかは定かでありませんが、もしあるとしたら確実に「もうすぐキミに会える」だと考えられます。この部分は音が10度でとられており、サウンドの面でも印象付けられている詩です。ここでも「キミ」が出てきます。

 このように、『つぎはぎ』も『SUBWAY』も、君(キミ)というワードがここぞというときに登場します。他の収録曲と共に、まとめてみましょう。

  • 『図鑑』「解き明かす 君となら」
  • 『伏線回収』…「君が唯一の光なんだ」
  • 『Chururi』…「君を想いながら明日へ運んでゆく」
  • 『花言霊』…「あなたが残してくれた花言霊」
  • 『つぎはぎ』…「君は分かっていた」
  • 『SUBWAY』…「もうすぐキミに会える」
  • 『十字星』…「君はいる」
  • 『ビューティフル』…「君を探してる」

 それぞれの曲の中で「君(キミ)(あなた)」という言葉が果たす役割はとても大きいように思います。また、家族、友人、恋人というような、毎日会って言葉を交わす存在でもないように感じました。(ですがこれは聞く人によるでしょう。)

「アルバム」の意義

 ストリーミングが主流となってきたこの時代。日本レコード大賞の「優秀アルバム賞」も、2019年を最後に姿を消しました。しかしここであえて、作品としてアルバムという形をとる意義を考えてみたいと思うのです。……と、堅苦しく言いましたが、実は私としては、既に結論が出ています。

アルバムがあったほうが楽しい!

 いや、単品が悪いとか言っているわけではないのですよ?もちろん。ニューシングルが出たときは、ガッツポーズをして喜びます。たとえ深夜0時リリースだとしても、時間ちょうどに再生ボタンをポチリ。

 ですがアルバムでしか味わえない楽しみもあり、それが先の章「アルバムのテーマ」で書いてきた事達です。『図鑑』における「君(キミ)(あなた)」の存在が自分の中で形を持ち始めたり、『Frontier』の次に『つぎはぎ』が並ぶことで「君は分かっていた」という詩から想像できることが増えたりもします。

 また、私は『南くんが恋人!?』の主題歌である『伏線回収』がアルバムに入ることで、「胸の中(ここに) いっつも いるんだよ君が」という歌詞の捉え方が変わってしまいました。

 『南くんが恋人!?』では、小さくなった南くんが胸ポケットにいる様子が、歌詞から想像できます。一方『図鑑』では、「君」はもうそばに居ないのではないかと思わずにはいられませんでした。

 インスタグラムにおけるライブ配信で北川さんは、今の時代の流れには逆らっているかも知れないけれどアルバムを制作してみようと思った旨を話していました。製作者側からは、私のようなリスナーには想像できないような物が見えていて、アルバムを制作する意義についても、さらに多くの意味付けがなされていることでしょう。

最後に

 いかがでしたか?今回は、インタビュー記事やラジオからゆずさんがアルバム『図鑑』に込めた思いを書き出すともに、アルバムのテーマ、アルバムの意義を考察してみました。アルバムとしての作品であることによって、曲の印象が変わっていったり、歌詞の意味の捉え方が増えたり、逆に絞れたりもします。

 今回はアルバムを丸ごと記事にしましたが、収録曲一曲ずつから『図鑑』について考察する記事も書きたいと思いますので、ぜひそちらもご覧ください!

 

 

 

 

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